冥土めぐり/鹿島田 真希

冥土めぐり

冥土めぐり

第147回芥川賞受賞作品。第一感想は、まずここから何を読み取ればいいのか分からない、だった。落ちぶれたかつての高級リゾートホテル。人生の一番良い時で感覚が止まってしまっている気分だけが成金の母親。やさしくて堅実だった脳神経の病に侵されて車椅子生活になってしまった夫。落ちぶれたホテルはバブル崩壊後いつまでも立ち直れない日本で、成金母親と車椅子夫は若者から未来の生活を吸い取ってしまっている大人たちのことなのか?主人公は為す術もない若者達のメタファーなのだろうか?

ひらいて/綿矢りさ

ひらいて

ひらいて

久しぶりの綿矢作品。「蹴りたい」同様悩める女子高生物語。だけれど、読者ターゲットは女子高生を狙ってはいない。確実にオヂサン狙いだ。好きな男に振られた腹いせに彼の彼女と寝る。彼の彼女は、予想外に主人公に身を任せてしまう。この辺の描写も結構オヂサン心をくすぐるようになっている。仕掛けた彼女は、冷静そうに見えて策士なんかではなく、落石のように自分をコントロールする術をもたず、転がる先もみえていない。無鉄砲で自己中心的な主人公は、もう立派なストーカー。スピード感のある展開で、ぐいぐいと引き込まれてしまう。今度の主人公は男の子の背中ではなく、男の子のDV父親の顔を殴る。一直線にすべてを薙ぎ倒してゆく主人公に巻き込まれる彼と彼女は、それぞれ戸惑う。でも、最後は「仲間」みたいな終わり方で締めくくられてしまっていて、その辺は作者の意図どおりだったのだろうか?綿矢さん、どーなのよ?

 

隣の女/向田邦子

隣りの女 (文春文庫)

隣りの女 (文春文庫)

どうやら向田さんはダメ男がお好きだったらしいこのアンソロジーに登場するのは、いづれもダメ男ばかり。けれど、ちょっと分かるというか、自分を投影してしまうダメ男がそこに描かれていて、親近感を覚えてしまうのだ。きっと女性が読んでもほかっておけない男たちが登場することだろう。妙に母性本能をくすぐるダメ男っぷりが、様々なアイテムで巧みに表現されている。

道化師の蝶/円城塔

道化師の蝶

道化師の蝶


第百四十六回芥川賞受賞作品。正直言ってキツイ。何が書いてあるのかさっぱり分からなかった。読書中に眠ってしまうこと数知れず。それでも頑張って読み進めてみたけれど、結局最後まで読めなかった。仕様がないので芥川賞の選評を読んでみたら、川上弘美さんが量子力学上の猫の話を書かれていた。生きてもいるし、死んでもいる猫という話で、そういう量子力学的な目には見えない(我々には存在しない)けれど、ある世界では存在してしまう話を書きたかったらしい。なるほどなあと思った。文系の人よりも、抽象化することで難しい問題を解いてしまうことに快感を得る理系の人の方が、この小説は楽しく読めるのかも知れない。全部バラバラだけれど、バラバラじゃないかもしれない物語。挑戦的、意欲的な作品ではあるが、僕には難しかった。

共食い/田中慎弥

共喰い

共喰い


第百四十六回芥川賞受賞作品。戦後の話か?と思ったら、冒頭に昭和六十三年の七月と書いてあって驚いた。昭和六十三年って、平成元年の一年前だぜ。携帯電話は無かったけれど、バブル崩壊直後でまだまだそれに気がついていない日本はイケイケ絶頂期の時代だったじゃん。いくら田舎だって言ったって、若者までがこんな封建的で、男尊女卑が通用するような感じだったろうか?当時大学生をしていた自分としては納得がいかない部分が多すぎる作品であった。ただ、作品全体に流れる肉厚というか、濃厚というか、厚みのある力強い文章が、時代性の危うさをもろともせず、読者を惹き付ける作品でもある。受賞会見では常識をすっ飛ばした著者だが、作風は超正統派だった。

自分の小さな「箱」から脱出する方法/アービンジャーインスティチュート, 金森重樹, 冨永星

自分の小さな「箱」から脱出する方法

自分の小さな「箱」から脱出する方法

  • 作者: アービンジャーインスティチュート,金森重樹,冨永星
  • 出版社/メーカー: 大和書房
  • 発売日: 2006/10/19
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
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物語として結構面白い。自分が心を開けば相手も心を開くし、お互いに心を開いた状態を作り上げることが、家族関係も会社での利益追求にも有効であるというか、唯一の手段なのだという。でも、自分がいつ心を開いたのか?という定義が難しく、それが理解できていないと自分の心をコントロールできないというところが肝心な部分となっている。我慢して自分の気持ちを繕っても、それは「箱」から出たことにはならず、相手に必ず伝わって「箱」から相手を出すことができない。う〜ん、言っていることは分かるのだけれど、それができるなら人間は人殺しも戦争もしないのでは?それができないから、ある意味人間なのだと思うのだけれど。。。

ジェントルマン/山田詠美

ジェントルマン

ジェントルマン


久しぶりに熱中して読んだ。最初はちょっと女ごころをゲイに転用してしまった感が漂っている気がしていたのだけれど、読み進めるうちに本当にあちら側の人たちはこんな気持ちを抱えて生きているのかもしれないと思えてきた。直接的な表現を微妙に避けることで、清流のようなきれいなエロが作品中を覆わせることに成功していると思う。ユメが追うヒトとユメを追うヒト。どちらも一生モノの恋愛で、上手く表現できないのがもどかしいくらい「恋」の切なさが伝わってくる。オヂサンには羨ましいくらいまぶしい恋愛小説だった。