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文學界6月号

文学界 2010年 06月号 [雑誌]

文学界 2010年 06月号 [雑誌]

乾燥肌/鶴川健吾

第110回文學界新人賞受賞作品。漫画を読んでいるかのような小説。風景や情景ではなく、コマ割の中に描かれた誇張表現された絵が浮かんでくる。ダニのアップや階下から響いてくるしゃっくりの音。突然現れる終末を迎えようとしているが、元気な老人。絵コンテを描いてから、文章を起こしたのではないかと踏んでいる。

自由高さH/穂田川洋山

第110回文學界新人賞受賞作品。話を途中で変えたのでは?と推測する。きっと、中曽根高大のサクセスストーリーとして描きはじめたのではないか。あと、町田康氏の影響でも受けているのか、難しい単語を使いたがるのが気になった。

拍動/シリン・ネザマフィ

京都から始まったので、日本人が主人公の小説を書いたのか!?と思ったけれど、やはりアラビア語圏の人々が主人公だった。それにしても日本語が上手いというか、ネイティブ以上に使いこなしている。こんな難しい日本語を知っていては日常会話に支障をきたすのでは?と心配になるくらいだ。実話なのか創作なのかは分からないけれど、病院の冷たい廊下の感じや、お見舞いに来る学生のざわざわした感じが伝わってくる。病院の中の感情の渦の中にぐいぐいと引き込まれてしまう。次作がとても楽しみ。

群青の杯を掲げ/上村渉

どこまでも歩きたくなるときがある。だから、俊の気持ちも大輔の気持ちもすごく分かる。何かから逃げたくてそうしているのではなく、新たな生活に挑むための儀式なのではないだろうか。だからこそ、中途半端には終わらせられない。ここを乗り切らなくては、自分自身が次に進めない。そんな切迫感が俊からも大輔からも伝わってくる。逃げてきたのでもなく、いらない何かを捨てるためでもなく、次の自分に出会うための長い道のり。結構秀作なのではないだろうか。