1万円起業/クリス・ギレボー(本田直之監訳)

 

1万円起業 片手間で始めてじゅうぶんな収入を稼ぐ方法

1万円起業 片手間で始めてじゅうぶんな収入を稼ぐ方法

 

 その名の通り、1万円で起業できるっていう本。今あなたがやっていること、持っているスキルで起業ができてしまう。本当かよ?そう思って本書を手に取ったわけだけれど、結論から言うと、未だもって自分に起業できる気になれないでいる。

何故だろうか?きっと、自分には誰かが欲しがりそうなモノを生み出す趣味もないし、誰かが困っていることを手助けできそうなスキルもないから。もしくは、自分の何が他人に必要とされるのか知らないから。

でも、そういうモノを持っていると自負する人ならば本書を読んで損は無いと思う。

本書は、いわゆる自己啓発本を装った自分の自慢話的集ではなく、実際にマイクロビジネスを始めてある程度成功していて、しかも世界をマーケットとして活躍している人たちを取材して書いているので、鼻につくところがなく、素直に羨ましいと思える。

最初は、いかに小さなな思いつきで、しかも、自分が起業していることに気がつかずに始めた売買がビジネスに転換してしまうものなのだという、自分の中にある何かを見つけるか、見つけないかが大きな差となるという話。

そして、それを広げるのか、深掘りするのか、マーケティングは?広告は?など一般企業でも当てはまりそうな話が実例とともに紹介されてゆく流れで構成されている。

ただ、ちょっと足らないと思ったのは、恐らく本書に紹介されているような、気がつかずにマイクロビジネスを始めた人たちはもっとたくさんいるハズで、失敗している人も、やはり気がつかずに終えてしまった人たちもいるハズ。そういう例も取り上げて違いを見せて欲しかったと思う。

本当に起業してみたいと思う人はぜひどうぞ。

わたしの彼氏/青山七恵

 

わたしの彼氏

わたしの彼氏

 

この人の作品を最初に読んだのは、文藝新人賞を獲った時の「窓の灯」。芥川賞もとっているけれど、内容は全然思い出せない。

調べてみたら、芥川賞は「ひとり日和」。読んだ形跡があるものの、内容は相変わらず出てこない。どうやら「やさしいため息」という作品も読んだことがあるようだけれど、全く記憶から消えている。

本書の内容は、モテモテだけど、意志薄弱で色がはっきりとしない大学生男子と彼を好きになってしまうちょっと変わった女たちが引き起こすドタバタ劇(だと思う)。それに大学生男子を思いやる三人の姉たちで物語は構成されている。大学生男子がきっと主人公だとは思うのだけれど、彼の主張はほとんど受け入れられないし、そもそも表明もしない。女たちの意志に飲み込まれては、女の意志によってのみ引き離されてゆく。それに抗うことなく流されてゆき、不満もない様子がイマドキ男子っぽくてリアリティがあるのかもしれない。想像がつかない男女の展開に飽きることがないので、面白かった。個人的にはゆり子のキャラクターは大好き。

 

ねじまき鳥クロニクル/村上春樹

 

ねじまき鳥クロニクル〈第1部〉泥棒かささぎ編

ねじまき鳥クロニクル〈第1部〉泥棒かささぎ編

 

 

 

ねじまき鳥クロニクル〈第2部〉予言する鳥編

ねじまき鳥クロニクル〈第2部〉予言する鳥編

 

 

 

ねじまき鳥クロニクル〈第3部〉―鳥刺し男編

ねじまき鳥クロニクル〈第3部〉―鳥刺し男編

 

 夢中になって読んだけれど、なぞがなぞを呼び、結局何だったのか分からない物語。ねじまき鳥のクロニクルというくらいだから、ねじまき鳥を時系列に持った、その声が聞こえる歴代の人々の紹介、という受け取り方もできるけれど、物語はそんなに簡単にはできていない。登場人物の一人ひとり、出て来るアイテムの一つひとつが何かしらのメタファーとなっているように思えるのだけれど、何の意味もないようにも思える。一回読んだくらいじゃ分からない深さがあることは分かったけれど、それ以上はさっぱり分からない。今のところは。

ちなみに、登場人物の中で一番好きなのは、正体不明な電話の女。あの滅茶振り具合がとってもいいと思う。もう一人の側のクミコ、と取れない事もないが、そうであるにしろ、そうでないにしろ、あのキャラクターは結構好き。

ツリーハウス/角田光代

 

ツリーハウス

ツリーハウス

 

簡単に言うと、 新宿で中華料理屋を営む藤代家のクロニクル。読んでいるうちに、自分も藤代家の一員になった気分になってくる。橋田壽賀子氏の「渡る世間は鬼ばかり」を連想させられるほど、家族が問題を起こす訳だけれど、何故か、祖父母はそれを受け入れてしまう。そうして、気がつくと、その中に居着いてしまう。戦争が、日本軍が、当時の若者の運命を大きく変えた。波乱万丈に思えるその人生の行き着く果ては、新宿の小さな中華料理屋に、静かに、そして確実に繋がっているのであった。小さな小さな個人の年代記で、まとめてしまえば「だから?」なのだけれど、何故かほっとくことができず、ぐいぐいと引き込まれてしまう。469ページ一気に読めてしまう。

ホテルローヤル/桜木紫乃

ホテルローヤル

ホテルローヤル

第百四十九回直木賞受賞作品。「オール読売」掲載のものを読んだ。ラブホテル(今はファッションホテルっていうのかな?)のホテルローヤルを基点としたアンソロジー。廃墟となったホテルの現在と過去の物語。と言っても、ホテル奮闘記ではなく、そこにまつわる人間の性と悲しい事情にフォーカスされている。廃墟でヌード撮影をするカップルを描いた最初の作品は、男の言い訳人生と、惚れた弱みでヌード撮影を許す彼女。そして、彼の人生が何も変わらないであろうことが透けて見え、心が離れてしまう。ベッドや床の埃やダニが気になって、体中がかゆくなって仕方なかった。二話目は、檀家を受け入れる住職の妻の話。お布施としてもらうお金は売春代という簡略化してしまうと身も蓋もない内容。お寺さんも生き残りをかけて大変なのだ。ホテルローヤルは単なる脇役。そして、三話目はホテルローヤルの掃除婦の人生を描く。不幸のデパートという主人公だが、どことなく無知が故の安穏とした雰囲気を醸し出し、そこがさらに悲哀を感じさせる。何故か、中上健次氏の「千年の愉楽」を思い出してしまった。直木賞選考メンバーは、皆べた褒めだった。

何者/朝井リョウ

何者

何者

第百四十八回直木賞受賞作品。 「就活」はこんな風なんだなと、ちょっと切なくなった。バブル期だった僕たちの就職活動には、こんな人間模様は無かったような気がする。自分になかっただけなのかも知れないけれど…。就職活動は、あくまでも個人戦で、一緒にテストをクリアしたり、エントリーシートを添削し合ったりすることもなかった(もちろん、エントリーシートというものもなかった)。会社のセミナー行っただけで、交通費とランチ、それにテレフォンカードが必ず貰えたので、ちょっとしたバイト感覚で会社訪問していたのも事実。もちろん、ツイッターなんてなかったから、仲間の本音と建前を文字で確認する術もなかった。そして、今、僕は面接をする側になったわけだけれど、未だもって「合格の条件」は分からない。だから、彼らが悩んで迷うのは当然だと思う。僕のところ(第一次面接)で合格をした学生が、役員面接でどうなったのかは聞かされることはないし、聞くこともない。ただ、自分の部署に配属になった新人を見ていつも思う。彼らは皆、面接の時の彼らとは全然違う。もっと、面接の時に配属後の自分を見せてくれたらいいのにといつも思う。僕の判断基準は、「この人と一緒に働きたいか?」だけなのだ。