東京奇譚集/村上春樹

東京奇譚集

東京奇譚集


久しぶりの春樹ワールドだった。人生を変えるには至らない、取るに足らない出来事のアンソロジーだと、語り手は冒頭でことわりを入れている。けれど、ここに登場する話はどれも普通じゃない。それもかなり普通じゃない。言葉をしゃべる猿に名札を盗まれたら、その人は名前を忘れるようになってしまう、なんてことが実際にあったら、普通「ふ〜ん」くらいではすまないだろう。家族を顧みずに、その猿を探しにゆく人だって出てくるだろうに。