yom yom 6
yom yom (ヨムヨム) 2008年 03月号 [雑誌]
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2008/02/27
- メディア: 雑誌
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ひなのちよがみ/畠中恵
これまた絵本に出てきそうなお噺。どうして、体が弱くて頼りなくて、機転が利くわけでもないのに、どうして若旦那に裁判官のような役が回ってくるのだろう?廻船問屋というのがこんなにみんなに信頼される存在だとは知らなかった。
虹の髪/沢木耕太郎
すごく日常的な設定に、実はあり得ないことが描かれている。こんな普通のおじさんが髪がきれいというだけで、女の後をつけるだろうか?しかも、後をつけられた女がそれに気がついて、後日好意的に声をかけるだろうか?妄想でしかない、あり得ないお話だった。
ネロリ/山本文緒
最後の種明かしは、面白かった。けれど、ちょっと山本文緒氏独特の人間観察眼というのか、その人の「本音」を炙り出す爽快さが無かったような気がした。主人公と社長や二代目との関係が、ステレオタイプだったのかもしれない。
どこから行っても遠い町/川上弘美
主人公と純子の気持ちのよどみ具合よりも、春田のおばさんが気になってしょうがなかった。春田のおばさんは仲睦まじくやっておきながら、実のところ旦那をどう思っていたのだろう?いつ頃から出て行ってやろうと思っていたのだろう?相手の男のどこが良かったのだろう?相手の男の部屋はどんなだろう?どういう部屋で息を引き取ったのだろう?気なることばかりだった。ためらいなく走り続けたその先には何があると思っていたのだろう?いい作品だった。
或る失恋の記録/森見登美彦
四畳半物語時代の松本零士やめぞん一刻の高橋留美子に感銘を受けたの?と訊きたくなる。失恋小説というか、高嶺の花小説というか、貧乏小説というか、まあ男がよく妄想する内容でしょう。大学にこんな奇想天外なサークルや個性的な人たちがいたら。でも、そこに必ず気になるあの子が……。いつもこんなことを妄想して大学に通っていたのだろうなあ、と学生時代の森見登見彦氏を想像してしまう作品だった。
森林くんの奇跡/栗田有起
不思議ちゃんの物語。光合成でもしているのかこの女は?という小説。派遣でモデルをしている太陽が出ていないと元気がなくなってしまう女。普通のアパートで暮らし、すごく普通な彼がいる。とうがたち、モデルの仕事もいいのが回って来ない。徹底的に普通なのに、その過去はエキセントリックだ。アメリカで雨乞いをして糧を得る両親の元で育つ彼女。そしてその両親が乗っているのは、ホロをしていないオープンカー。子どもが寝ているうちに車から居なくなってしまう親。えええ?何の話?という過去の展開。一体何が言いたかったのだろう?
浮き草/角田光代
yomyomの連作は続く。角田さんは、貧乏夢追い小説というジャンルを確立できたのではないだろうか?芸術だとか、主張だとか、自分が追い求める何かを追い続ける主人公たち。現実との乖離に目を背けながらも、とっくに気づいている才能の無さというか、自分もただの普通の人だという現実を叩きつけられる。そしてちっぽけなプライドをちっぽけな方法で満足させようとして、その虚しさに気づく。そんな話だ。
獄/イーユン・リー
代理出産。その話の裏側にはきっと様々なドラマがあるのだろうな、と思わされる作品。代理母という切り口から、貧困と人売りという中国の現実を見せてくれる。そして母親となった女性の本能を見せてくれている。何かを犠牲にしてしか成り立たない代理母出産。考えさせられる作品だった。
にんじん/重松清
小学校小説と言えばこの人だろう。ああ、この人はこれだよね、という作品。小学校の教科書かと思うほど優等生チックだ。と思ったら、この人の作品は中学入試によく使われているらしい。この人の小学生ネタ以外の作品を読んでみたいものだ。無いか。
試着室/金原ひとみ
何か分からないけれど、圧倒される力強さのようなものを感じる。手を抜いていないという感じか?彼の顔、部屋の描写、会話、自分の思い。どれをとっても単語を一つひとつ納得いくまで選んでいるという気がする。
lie cylinder/嶽本野ばら
今回のテーマは耳。耳からそう来たかという感じ。御伽噺というか、絵本に出てきそうなお話。相変わらず群集の愚かさを、清々しいほどスッパッと書ききってくれている。