色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年/村上春樹

色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年

色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年

悩める田崎つくるくんの物語。難解。何かを失ってしまって、絶望に淵に立って身動きが取れなくなって、そんんでもって。。。という感じなのだけれど、結局、そこからの再生のお話し。絶望に追い込まれた原因となる場所に、巡礼をの旅をすることで、彼は彼を取り戻してゆく。けれど、つくるを傷つけた相手もまた、そのことで深く傷つき、癒えることのない傷を抱えまたまま生きていた。。。的な物語。やはり主人公(悩める男子)を救うのは、ちょっと頭の回転が速い女子たち。この辺は昔から村上文学の定石となっている。ただし、今回は主人公を癒すために自分を抱かせてしまうようなあり得ない女子はいない。

海賊と呼ばれた男/百田尚樹

海賊とよばれた男 上

海賊とよばれた男 上

海賊とよばれた男 下

海賊とよばれた男 下

出光興産の話。永遠の0ほどのインパクトと感動は無かったけれど、戦後、アメリカやイギリスに真っ向勝負をかけて、ビジネスで勝った男がいたなんて驚きだった。冷静に考えれば、単なる向こう見ずな頑固者ということなのだけれど、その犠牲精神とバイタリティと商売人魂には圧倒されるし、魅力を感じずにはいられない。でも、本当にすごいのは、店主を信望してサポートし続ける店員たち。店主の言うことなら、「やります」ではなく、「やりたい」のだ。異常なまでの宗教的な店主崇拝には、ちょっと馴染めないところもあったけれど、軍隊経験者たちなら本当にあったことかもしれないと思ったりもした。これは百田さんの単なる演出の一つにすぎないのかもしれないけど。。。

四月に配属されてきた今年の新人が門司の出身でさらに驚いた。

考えの整頓/佐藤雅彦

考えの整頓

考えの整頓

ピタゴラスイッチポリンキー、バザールでござ〜るのCMを手がけた佐藤雅彦氏のエッセイ。ピタゴラの番組に登場する、解ってしまえば簡単なことなのに、不思議で溢れている面白い現象の裏側が大好きで、iPhonenにする前はワンセグで録画してまでしてピタゴラを観ていた。しかも、携帯サイトの有料会員にもなっていた。年末にやる大人のピタゴラスイッチも毎年観ている。そんな佐藤雅彦氏が「暮らしの手帖」の中で連載しているエッセイをまとめたのがこの本。佐藤氏の人とはちょっと違う「気づき」がおかしくて、面白い。もっと続きが読みたくなる。

パン屋を襲う/村上春樹

パン屋を襲う

パン屋を襲う

「パン屋を襲う」の復刻&リライトバーションで、Kat Menschikさんのイラストが入った絵本版。パン屋を襲うの初版は1981年で、ジョン・レノンが銃殺されたすぐ後なのだそうだ。イラストが妙にリアルでシュール。いきなりウミガメから始まる。想像を超える空腹を表現しているのか、内臓が飛び出した絵などが差し込まれる。個人的には好きなイラストだけれど、苦手な人もいるかも。想像を絶する空腹がトリガーとなってパン屋を襲う訳だけれど、何かが枯渇し、それが引き金となってクーデターが起こり、無法状態が訪れる。何故パン屋なのか、どうして奪うものがお金ではないのか誰も分からないし、分かる手立てもない。その必要性があるのかも分からない。とにかく、空腹がトリガーとなり、パン屋が襲撃される。それだけの話。パン屋再襲撃も収録されている。

永遠の0/百田尚樹

永遠の0 (講談社文庫)

永遠の0 (講談社文庫)

泣いた。宮部久蔵かっこ良すぎる。途中で宮部に生きていて欲しいという思いが強くなる過ぎるあまり、本当は生きていているのではないかと想像してしまっている自分がいることに気づく。実は本当のお爺ちゃんではないと思っているその人こそ、特攻から生き残った宮部で、名前を偽って本土に戻って来ただけなのではないかと勝手な想像をしてしまうほど、宮部という人間に釘付けされてしまう。小説としては、細かい表現などはあまり完成されているとは言えないけれど、徐々にベールを脱いでゆく戦争と戦闘機搭乗員と特別攻撃隊の真実に圧倒されてしまう。戦争を全く知らない僕たちに、当時の日本の誇らしい部分と陰湿な部分を見せつける。そして、誇らしい部分はもう日本には残っておらず、陰湿な部分は今もはびこっていることに愕然とさせられる。宮部久蔵が実在していたらいいのに、と心底思う作品だった。

アカシア/辻仁成

アカシア

アカシア

訳の分からないアンソロジー。

ポストはネコを思い出した。ある日、実家の庭にやって来て、それ以来、家の中に入ろうとはしないけれど、毎日庭にやって来て、羨ましげに窓の外から部屋の中を見つめているのである。

ピジョンゲームは家庭内別居とイタリアのカフェがある広場の日常とピンクのハトの物語。カフェにいる人々も街を行き来する人々もピンクのハトには無関心というか、存在すら気がつかない。ピンクのハトが自分の元にやって来て、夫は妻がとうの前から家を出て行ってしまっている可能性に気がつく。ピンクのハトって何のメタファーだったのだろう?

その他、布袋を被った男や盗まれてしまう歌など一体何を言おうとしているのか分からないアイテムが各物語に登場する。

何をどう思えばいいのか、誰か教えて欲しい。

妻の超然/絲山秋子

妻の超然

妻の超然

「妻の超然」は夫のことが大事で仕方が無い妻の戯言。ストーカーを撃退した手紙の内容がすごく気になったけれど、明かしてはくれなかった。「下戸の超然」は面倒臭いことと自分の守備範囲とを混同しているボクちゃんの言い訳物語。僕はこういうタイプの男ではないので、あまり気持ちが分からなかった分、イライラしながらも楽しく読めた。「作家の超然」は、作家ではないので何が言いたいのか最後まで分からなかった。どうして作家が良性腫瘍の手術をして入院しなくてはならない必要があったのかさっぱり分からなかった。ひょっとしたら、人間と細胞のレトリックを使いたいためだけに入院させたのか?あと、地の文の語りは誰なのか?主人公である「作家」を「おまえ」と呼ぶ存在。誰?